溶剤

 揮発性油。絵画以外の分野にも少し範囲を広げると、現代に至るまで歴史上では様々な溶剤が使用されてきた。

現在、絵画用途として最も一般的なものは、石油系溶剤のペトロール、または植物精油の一種であるターペンタインの2つが挙げられる。

いずれも蒸気を吸うと有害であり、使用時は換気を行う必要がある。また、引火の危険性があるため、火気に注意する。 

ペトロール(Petrole)石油系溶剤

 原油を350℃以上に加熱し、構成される成分の沸点に分けて得る、無色透明の石油系溶剤。約120℃200℃の沸点範囲で分留されたものが、画材・塗料系の溶剤として最も利用される(ソルベントナフサ)。

 芳香族を多く含むHAWS(High Aromatic White Spirit)は臭気が強く、樹脂に対する溶解力に優れる。低芳香族のものはLAWS(Low Aromatic White Spirit)と呼ばれ、HAWSよりも臭気は穏やかだが、やや溶解力も劣る。

 

 塗料業界では、HAWS級ソルベント、LAWS級などと呼ばれるが、近年では健康上の問題から、芳香族を含まない他の溶剤へ置き換えられる動きがある。

 脂肪族で構成されるオドレスペトロールも絵画用途に用いられ、これは芳香族がほとんど含まれないため臭気が無い。ただし樹脂に対する溶解力はかなり低い。芳香族ペトロールを使用したワニスに、オドレスペトロールを加えると溶解力が不足して白濁する場合がある。

ターペンタイン(Turpentine)テレビン油、またはテレピン油

 マツ科の樹木のチップを水蒸気蒸留したものはウッドテレピン油、松脂を水蒸気蒸留したものはガムテレピン油と呼ばれる、無色透明の精油。品質面においては、ガムテレピン油の方が上とされる。主成分はα-ピネンの他、少量のβ-ピネンを含む。国内の画材店で入手できるターペンタインは、ほぼα-ピネンで構成されていると考えて良い。

 

 空気中で酸化が進むと黄変し、粘度が増す。この状態のターペンタインはベタついたまま乾かず、画用に適さない。長期保管する際は、容器中の空気層をできるだけ少なくする。大きな瓶に少量だけ残したままにせず、小さな瓶に小分けして空気層を少なくすると、劣化しにくくなる。

ダンマル樹脂、マスチック樹脂との相性が良く、よく自家製ワニス作りの材料として用いられる。

スパイクラベンダー オイル(Spike Lavender Oil)

 地中海原産のシソ科植物スパイクラベンダー(ラベンデュラ スピカ Lavandula spica)の花、または花と葉を水蒸気蒸留して得られる、淡黄色透明の精油。抗菌作用を有する。ペトロール、ターペンタインに比べて揮発速度は遅く、天然樹脂に対する溶解力は強い。また、重ね塗り時に弾きを防ぐ作用があり、調合油にごく少量加えて使用すると効果が得られる。

 ラバンジンという品種があるが、これはイングリッシュラベンダーとスパイクラベンダーの交配種であり、香りが似ている。専ら画用にはスパイクラベンダーオイルが用いられる。