材料

 産業革命以降、特に有機顔料や染料を中心とした合成技術が高まり、古くから使用されていた天然由来の原料に置き換わってきた。それまで顔料や染料の生産に携わっていた業者は軒並み廃業を余儀なくされたが、今でもその伝統的な色彩は絵具のカラーラインナップに受け継がれている。

 原料さえ揃えば植物性の染料からレーキ顔料を作ることはできるが、天然土を由来とする顔料は鉱山が封鎖すれば供給が途絶える。天然土の発色成分は複雑な複合性鉱物から成るため、合成顔料での完全な代替が難しい。一度掘りつくされた鉱山が閉鎖した後、周辺地域で新たな鉱脈が見つかる事があり、比較的近年ではイタリア シエナ地方で産出するローシェンナ(Raw Sienna)が例として挙げられる。

マダールート(Madder Root)西洋茜

 古代から染料の原料として栽培される。西洋茜の根を煮出すと赤色の染料が得られることから、日本では赤根(あかね)と呼ばれた。この染料をアルミニウムミョウバンで処理すると不溶性の固体となり、レーキ顔料として絵具に利用できるようになる。現在は発色成分の有機化合物と同じ「1,2-ジヒドロキシアントラキノン(1,2-dihydroxyanthraquinone)」が化学合成されるようになり、Rose MadderやAlizarin Crimsonなどの色名で画材店に並んでいる。合成顔料のC.I.Nameは、Pigment Red 83。

コチニールカイガラムシ(Cochineal

 コチニールカイガラムシ科のカイガラムシの一種。エンジムシとも呼ばれる。ウチワサボテン属のサボテンに寄生し、古くから養殖されてきた。現在においても染料として利用され、天然着色料として食品の着色にも使用される。

 

 南ヨーロッパに広く生息するケルメスカイガラ虫(Kermes vermilio Planch)から抽出された色であることから、カーマイン(Carmine)と呼ばれる。染料をアルミニウム塩でレーキ化すると、顔料として利用できる。発色成分はアントラキノン誘導体のカルミン酸であり、絵画ではCarmine、Crimson Lakeといった色名で呼ばれているが、現在はRose Madderなどと同じ合成有機顔料である1,2-ジヒドロキシアントラキノン(Pigment Red 83)で代替される。

ドラゴンズブラッド(Dragon's Blood)麒麟血

 ドラゴンやキリンの血ではなく、イエメンのソコトラ島に固有育成するキジカクシ科ドラセナ属の樹木、ドラセナシナバリ(Dracaena cinnabari)の幹や枝から分泌する樹液。採取した樹液を乾燥させると写真のように赤黒くなるが、断面を見ると透明な赤色であることが分かる。エタノールなどのアルコールに容易に溶解し、赤色の着色剤として黄金テンペラ、または木工に使用する。

 発色成分はドラコルビン、ドラコロジン(Dracorubin, Dracorhodin)が関与しているとされる。 C.I. Nameは、Natural Red 31。

ビチューム(Bituminous Coal, Bituminous Earth)瀝青質、瀝青土

 炭化水素からなる化合物であり、石炭としてはグレードの低いもの。炭化度の度合いによって色合いも異なる。ドイツから産出する瀝青質の土はCassel Earthとして知られ、深い褐色をしている。顔料としては若干の溶出分があり不安定だが、アスファルト、ビチューメンなどの色名でも呼ばれ、絵画利用される。ミイラの保存のために瀝青質が使われていた事からMummy Brownの発色成分の一つとも考えられている。