高森幸雄 塗料化学 Yukio Takamori - Chemistry of paints

硫黄化合物と鉛白の混色による黒変

 

鉛化合物である鉛白は、硫黄と反応すると黒色の硫化鉛を生成する。

そのため理論上では硫黄化合物を含有する色との混色によって黒変し、彩度を低下させると言える。

 

硫黄化合物から組成される主な顔料には、カドミウムイエロー(硫化カドミウム亜鉛)、カドミウムレッド(硫セレン化カドミウム)、ウルトラマリン(硫黄含有アルミノ珪酸ナトリウム錯塩)が挙げられる。

 

当時、油彩絵具でこうした色と鉛白(シルバーホワイトなど)を混色すると黒変が起こるといった内容の情報や記述が多く見られたが、具体的な例を示す資料や文献が提示されているものが少なかった。

これらの情報が事実であるかどうか、また色に及ぼす影響を確認するべく実験を行った。

 

実験方法

Winsor&Newton社油絵具のクレムニッツホワイト(純鉛白)とカドミウムイエローペール、カドミウムレッド、フレンチウルトラマリンを混色したグラデーションを塗布し、通常の作品展示状態(※)を想定して、屋内の間接光が当たる場所に置いて色の変化を記録した。

 

※ここでの通常の作品展示状態とは、額縁にガラスをはめていない状態で直接外気に絵具が接する状態とする。

 

いずれの色も同メーカーの専門家用油絵具を使用し、実験期間中の室内でサンプルに対して急激な温度・湿度の変化が生じないように、常温で1ヶ月単位で経過を観察した。

また、比較のためにチタニウムホワイトと混色したサンプルも同時に作成した。

 

硫黄化合物と鉛白の混色による黒変-1

2009年 3月 30日 ~ 2013年 1月 23日

上記期間中、全サンプルを屋内、常温で間接光照射

※ただし、 サンプル Ⓒ−2 は Ⓒ−3を1ヶ月間、直射日光下に置いたもの

※ここでの「クレムニッツホワイト」は、国産油絵具のシルバーホワイト(純鉛白のもの)に相当

 

結果

サンプルⒶ〜Ⓑ

カドミウム系色と鉛白を混色したサンプルでは塗布後、約4年が経過した現在でも黒変・変色が確認されていない。

 

サンプルⒸ

ウルトラマリンと鉛白を混色したサンプルⒸ−2Ⓒ−3では、塗布後4ヶ月が経過した地点から徐々に黒変の進行が確認され、約3〜4年後にかけて黒変の進行は穏やかになった。

写真では彩度が低下し、緑がかった青へ色が変化しているのが確認できる。

 

なお、Ⓒ−2は、Ⓒ−3を1ヶ月間直射日光に晒したものである。

太陽光の作用によってサンプルⒸ−2は黄変が低減したため、視覚的には黒変が緩和して青味を取り戻したように見える。

 

 

一般にカドミウム顔料は安定性の高い化合物であり、簡単には硫黄が離脱しない。そのため通常の使用環境において鉛白と混色しても黒変が生じないと考えられる。

 

これに対し、ウルトラマリンは通常の使用環境においても比較的簡単に硫黄が遊離する性質があるため、鉛白との混色で硫化鉛を生成し、ある程度までこの色を黒変させることが分かった。

 

追記

ウルトラマリン顔料には、これらの欠点を改善した耐酸性ウルトラマリン顔料も存在する。

耐酸性ウルトラマリンでは、顔料の粒子が酸化ケイ素の透明な皮膜で覆われているため硫黄の離脱が抑えられ、上記のような黒変が抑制される。